囈語
芥川龍之介

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)胃袋《ゐぶくろ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)時々|潮《しほ》も

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から1字上げ](大正十五年五月)
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     一

 僕の胃袋《ゐぶくろ》は鯨《くぢら》です。コロムブスの見かけたと云ふ鯨です。時々|潮《しほ》も吐きかねません。吼《ほ》える声を聞くのには飽き飽きしました。

     二

 僕の舌や口腔は時々熱の出る度に羊歯《しだ》類を一ぱいに生やすのです。

     三

 一体|下痢《げり》をする度に大きい蘇鉄《そてつ》を思ひ出すのは僕|一人《ひとり》に限つてゐるのかしら?

     四

 僕は腹鳴りを聞いてゐると、僕自身いつか鮫《さめ》の卵を産《う》み落してゐるやうに感じるのです。

     五

 僕は憂鬱になり出すと、僕の脳髄《なうずゐ》の襞《ひだ》ごとに虱《しらみ》がたかつてゐるやうな気がして来るのです。
[#地から1字上げ](大正十五年五月)



底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房
   1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行
   1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行
入力:土屋隆
校正:松永正敏
2007年6月26日作成
青空文庫作成ファイル:
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終わり
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