こう言った。もとより躊躇《ちゅうちょ》に、時を移すべき場合ではない。次郎は、やにわに持っていた太刀《たち》を、できるだけ遠くへほうり投げると、そのあとを追って、頭をめぐらす野犬のすきをうかがって、身軽く馬の平首へおどりついた。太郎もまたその刹那《せつな》に猿臂《えんび》をのばし、弟の襟上《えりがみ》をつかみながら、必死になって引きずり上げる。――馬の頭《かしら》が、鬣《たてがみ》に月の光を払って、三たび向きを変えた時、次郎はすでに馬背にあって、ひしと兄の胸をいだいていた。
と、たちまち一頭、血みどろの口をした黒犬が、すさまじくうなりながら、砂を巻いて鞍壺《くらつぼ》へ飛びあがった。とがった牙《きば》が、危うく次郎のひざへかかる。そのとたんに、太郎は、足をあげて、したたか栗毛《くりげ》の腹を蹴《け》った。馬は、一声いななきながら、早くも尾を宙に振るう。――その尾の先をかすめながら、犬は、むなしく次郎の脛布《はばき》を食いちぎって、うずまく獣の波の中へ、まっさかさまに落ちて行った。
が、次郎は、それをうつくしい夢のように、うっとりした目でながめていた。彼の目には、天も見えなければ、地も
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