生きと、しわだらけの顔をにやつかせて、蛙股《かえるまた》の杖《つえ》のはこびを、前よりも急がせ始めた。
それも、そのはずである。四五間先に、道とすすき原とを(これも、元はたれかの広庭であったのかもしれない。)隔てる、くずれかかった築土《ついじ》があって、その中に、盛りをすぎた合歓《ねむ》の木が二三本、こけの色の日に焼けた瓦《かわら》の上に、ほほけた、赤い花をたらしている。それを空《そら》に、枯れ竹の柱を四すみへ立てて、古むしろの壁を下げた、怪しげな小屋が一つ、しょんぼりとかけてある。――場所と言い、様子と言い、中には、こじきでも住んでいるらしい。
別して、老婆の目をひいたのは、その小屋の前に、腕を組んでたたずんだ、十七八の若侍で、これは、朽ち葉色の水干に黒鞘《くろざや》の太刀《たち》を横たえたのが、どういうわけか、しさいらしく、小屋の中をのぞいている。そのういういしい眉《まゆ》のあたりから、まだ子供らしさのぬけない頬《ほお》のやつれが、一目で老婆に、そのたれという事を知らせてくれた。
「何をしているのだえ。次郎さん。」
猪熊《いのくま》のばばは、そのそばへ歩みよると、蛙股《かえる
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