う》と刃《は》を合わせないうちに、見る見る、鉾先《ほこさき》がしどろになって、次第にあとへ下がってゆく。それがやがて小路のまん中まで、切り立てられて来たかと思うと、相手は、大きな声を出して、彼が持っていた鉾《ほこ》の柄《え》を、みごとに半ばから、切り折った。と、また一太刀《ひとたち》、今度は、右の肩先から胸へかけて、袈裟《けさ》がけに浴びせかける。猪熊《いのくま》の爺《おじ》は、尻居《しりい》に倒れて、とび出しそうに大きく目を見ひらいたが、急に恐怖と苦痛とに堪えられなくなったのであろう、あわてて高這《たかば》いに這《は》いのきながら声をふるわせて、わめき立てた。
「だまし討ちじゃ。だまし討ちを、食らわせおった。助けてくれ。だまし討ちじゃ。」
 赤あざの侍は、その後ろからまた、のび上がって、血に染んだ太刀《たち》をふりかざした。その時もし、どこからか猿《さる》のようなものが、走って来て、帷子《かたびら》の裾《すそ》を月にひるがえしながら、彼らの中へとびこまなかったとしたならば、猪熊《いのくま》の爺《おじ》は、すでに、あえない最後を遂げていたのに相違ない。が、その猿《さる》のようなものは、
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