がわかった。そうして、阿濃は、罪の無いのが明らかになったので、さっそく自由の身にされた。
それから、十年余りのち、尼になって、子供を養育していた阿濃は、丹後守何某《たんごのかみなにがし》の随身に、驍勇《きょうゆう》の名の高い男の通るのを見て、あれが太郎だと人に教えた事がある。なるほどその男も、うす痘瘡《いも》で、しかも片目つぶれていた。
「次郎さんなら、わたしすぐにも駆けて行って、会うのだけれど、あの人はこわいから……」
阿濃《あこぎ》は、娘のようなしな[#「しな」に傍点]をして、こう言った。が、それがほんとうに太郎かどうか、それはたれにも、わからない。ただ、その男にも弟があって、やはり同じ主人に仕えるという事だけ、そののちかすかに風聞された。
[#地から2字上げ](大正六年四月二十日)
底本:「羅生門・鼻・芋粥・偸盗」岩波文庫、岩波書店
1960(昭和35)年11月25日 第1刷発行
底本の親本:「芥川竜之介全集」岩波書店
1954(昭和29)年〜1955(昭和30)年
入力:福田芽久美
校正:野口英司
1998年10月4日公開
2004年3月10日修正
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