の様子では、よほどはげしく抵抗したものらしい。証拠ともなるべきものは、その死骸《しがい》が口にくわえていた、朽ち葉色の水干の袖《そで》ばかりである。
また、不思議な事には、その家の婢女《みずし》をしていた阿濃《あこぎ》という女は、同じ所にいながら、薄手一つ負わなかった。この女が、検非違使庁《けびいしちょう》で、調べられたところによると、だいたいこんな事があったらしい。だいたいと言うのは、阿濃が天性白痴に近いところから、それ以上要領を得《う》る事が、むずかしかったからである。――
その夜、阿濃は、夜ふけて、ふと目をさますと、太郎次郎という兄弟のものと、沙金《しゃきん》とが、何か声高《こわだか》に争っている。どうしたのかと思っているうちに、次郎が、いきなり太刀《たち》をぬいて、沙金を切った。沙金は助けを呼びながら、逃げようとすると、今度は太郎が、刃《やいば》を加えたらしい。それからしばらくは、ただ、二人のののしる声と、沙金の苦しむ声とがつづいたが、やがて女の息がとまると、兄弟は、急にいだきあって、長い間黙って、泣いていた。阿濃は、これを遣《や》り戸《ど》のすきまから、のぞいていたが、主
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