れいめい》を見たのである。
「この子は――この子は、わしの子じゃ。」
彼は、はっきりこう言って、それから、もう一度赤ん坊の指にふれると、その手が力なく、落ちそうになる。――それを、沙金《しゃきん》が、かたわらからそっとささえた。十余人の盗人たちは、このことばを聞かないように、いずれも唾《つ》をのんで、身動きもしない。と、沙金が顔を上げて、赤子を抱いたまま、立っている交野《かたの》の平六の顔を見て、うなずいた。
「啖《たん》がつまる音じゃ。」
平六は、たれに言うともなく、つぶやいた。――猪熊《いのくま》の爺《おじ》は、暗《やみ》におびえて泣く赤子の声の中に、かすかな苦悶《くもん》をつづけながら、消えかかる松明《たいまつ》の火のように、静かに息をひきとったのである。……
「爺《おじ》も、とうとう死んだの。」
「さればさ。阿濃《あこぎ》を手ごめにした主《ぬし》も、これで知れたと言うものじゃ。」
「死骸《しがい》は、あの藪中《やぶなか》へ埋めずばなるまい。」
「鴉《からす》の餌食《えじき》にするのも、気の毒じゃな。」
盗人たちは、口々にこんな事を、うす寒そうに、話し合った。と、遠くで、か
前へ
次へ
全113ページ中108ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
芥川 竜之介 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング