には野蛮人を一人持つてゐなければならぬ。
又
文を作らんとするものゝ彼自身を恥づるのは罪悪である。彼自身を恥づる心の上には如何なる独創の芽も生へたことはない。
又
百足《むかで》 ちつとは足でも歩いて見ろ。
蝶 ふん、ちつとは羽根でも飛んで見ろ。
又
気韻は作家の後頭部である。作家自身には見えるものではない。若し又無理に見ようとすれば、頸《くび》の骨を折るのに了るだけであらう。
又
批評家 君は勤め人の生活しか書けないね?
作家 誰か何でも書けた人がゐたかね?
又
あらゆる古来の天才は、我我凡人の手のとどかない壁上の釘に帽子をかけてゐる。尤も踏み台はなかつた訳ではない。
又
しかしああ言ふ踏み台だけはどこの古道具屋にも転がつてゐる。
又
あらゆる作家は一面には指物師《さしものし》の面目を具へてゐる。が、それは恥辱ではない。あらゆる指物師も一面には作家の面目を具へてゐる。
又
のみならず又あらゆる作家は一面には店を開いてゐる。
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