ことである。
又
自由主義、自由恋愛、自由貿易、――どの「自由」も生憎杯の中に多量の水を混《こん》じてゐる。しかも大抵はたまり水を。
言行一致
言行一致の美名を得る為にはまづ自己弁護に長じなければならぬ。
方便
一人を欺かぬ聖賢はあつても、天下を欺かぬ聖賢はない。仏家の所謂善巧方便とは畢竟精神上のマキアヴエリズムである。
芸術至上主義者
古来熱烈なる芸術至上主義者は大抵芸術上の去勢者である。丁度熱烈なる国家主義者は大抵亡国の民であるやうに――我我は誰でも我我自身の持つてゐるものを欲しがるものではない。
唯物史観
若し如何なる小説家もマルクスの唯物史観に立脚した人生を写さなければならぬならば、同様に又如何なる詩人もコペルニクスの地動説に立脚した日月山川を歌はなければならぬ。が、「太陽は西に沈み」と言ふ代りに「地球は何度何分廻転し」と言ふのは必しも常に優美ではあるまい。
支那
蛍の幼虫は蝸牛《かたつむり》を食ふ時に全然蝸牛を殺してはしまはぬ。いつも新らしい肉を食ふ為に蝸牛
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