の非難を逆に用ひ、幸福、愉快、軽妙等を欠いてゐると罵つてもかまひません。一名『木に縁つて魚を求むる論法』と申すのは後に挙げた場合を指したのであります。『全否定論法』或は『木に縁つて魚を求むる論法』は痛快を極めてゐる代りに、時には偏頗《へんぱ》の疑ひを招かないとも限りません。しかし『半肯定論法』は兎に角或作品の芸術的価値を半ばは認めてゐるのでありますから、容易に公平の看を与へ得るのであります。
「就《つ》いては演習の題目に佐佐木茂索氏の新著『春の外套』を出しますから、来週までに佐佐木氏の作品へ『半肯定論法』を加へて来て下さい。(この時若い聴講生が一人、「先生、『全否定論法』を加へてはいけませんか?」と質問する)いや、『全否定論法』を加へることは少くとも当分の間は見合せなければなりません。佐佐木氏は兎に角声明のある新進作家でありますから、やはり『半肯定論法』位を加へるのに限ると思ひます。……」
          *   *   *   *   *
 一週間たつた後、最高点を採つた答案は下に掲げる通りである。
「正に器用には書いてゐる。が、畢竟それだけだ。」

       親子

 親は
前へ 次へ
全69ページ中47ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
芥川 竜之介 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング