aA美と醜、勇敢と怯懦《けふだ》、理性と信仰、――その他あらゆる天秤の両端にはかう云ふ態度をとるべきである。古人はこの態度を中庸と呼んだ。中庸とは英吉利語の good sense である。わたしの信ずるところによれば、グツドセンスを待たない限り、如何なる幸福も得ることは出来ない。もしそれでも得られるとすれば、炎天に炭火を擁したり、大寒に団扇《うちは》を揮《ふる》つたりする我慢の幸福ばかりである。
小児
軍人は小児に近いものである。英雄らしい身振を喜んだり、所謂光栄を好んだりするのは今更此処に云ふ必要はない。機械的訓練を貴んだり、動物的勇気を重んじたりするのも小学校にのみ見得る現象である。殺戮《さつりく》を何とも思はぬなどは一層小児と選ぶところはない。殊に小児と似てゐるのは喇叭《らつぱ》や軍歌に鼓舞されれば、何の為に戦ふかも問はず、欣然《きんぜん》と敵に当ることである。
この故に軍人の誇りとするものは必ず小児の玩具に似てゐる。緋縅《ひをどし》の鎧や鍬形《くはがた》の兜《かぶと》は成人の趣味にかなつた者ではない。勲章も――わたしには実際不思議である。なぜ軍人は酒にも酔
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