内に、ばたばた後から駈けて来るものがありますから、二人とも、同時に振返って見ると、別に怪しいものではなく、泰さんの店の小僧が一人、蛇《じゃ》の目《め》を一本肩にかついで、大急ぎで主人の後を追いかけて来たのです。「傘か。」「へえ、番頭さんが降りそうですから御持ちなさいましって云いました。」「そんならお客様の分も持ってくりゃ好いのに。」――泰さんは苦笑しながら、その蛇の目を受取ると、小僧は生意気に頭を掻いてから、とってつけたように御辞儀をして、勢いよく店の方へ駈けて行ってしまいました。そう云えば成程頭の上にはさっきよりも黒い夕立雲が、一面にむらむらと滲み渡って、その所々を洩れる空の光も、まるで磨いた鋼鉄のような、気味の悪い冷たさを帯びているのです。新蔵は泰さんと一しょに歩きながら、この空模様を眺めると、また忌わしい予感に襲われ出したので、自然相手との話もはずまず、無暗《むやみ》に足ばかり早め出しました。ですから泰さんは遅れ勝ちで、始終小走りに追いついては、さも気忙《きぜわ》しそうに汗を拭いていましたが、その内にとうとうあきらめたのでしょう。新蔵を先へ立たせたまま、自分は後から蛇の目の傘を下
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