失敬するよ。」――こう云いながら、電話を切った泰さんの声の中には、明かに狼狽《ろうばい》したけはいが感じられました。また実際お島婆さんが、二人の間の電話にさえ気を配るようになったとすると、勿論泰さんとお敏とが秘密の手紙をやりとりしているにも、目をつけているのに相違ありませんから、泰さんの慌てるのももっともなのです。まして新蔵の身になって見れば、どうする心算か知らないにもせよ、とにかくかけ換のない泰さんの計画が、あの婆に裏を掻《か》かれる以上、それこそ万事休してしまうよりほかはありません。ですから新蔵は電話口を離れると、まるで喪心《そうしん》した人のように、ぼんやり二階の居間へ行って、日が暮れるまで、窓の外の青空ばかり眺めていました。その空にも気のせいか、時々あの忌わしい烏羽揚羽《うばあげは》が、何十羽となく群を成して、気味の悪い更紗模様《さらさもよう》を織り出した事があるそうですが、新蔵はもう体も心もすっかり疲れ果てていましたから、その不思議を不思議として、感じる事さえ出来なかったと云います。
 その晩もまた新蔵は悪夢ばかり見続けて、碌々《ろくろく》眠る事さえ出来ませんでしたが、それで
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