びん》の尻をとって、「さあ、ちっと陽気に干そうじゃないか。」と、相手を促した時の事でした。何気なくそのコップをとり上げた新蔵が、ぐいと一息に飲もうとすると、直径二寸ばかりの円を描いた、つらりと光る黒麦酒の面に、天井の電燈や後の葭戸《よしど》が映っている――そこへ一瞬間、見慣れない人間の顔が映ったのです。いや、もっと精密に云えばただ見慣れない顔と云うだけで、人間かどうかもはっきりとはわかりません。こちらの考え方一つでは、鳥とでも、獣とでも、乃至《ないし》は蛇や蛙とでも、思って思えない事はないのです。それも顔と云うよりは、むしろその一部分で、殊に眼から鼻のあたりが、まるで新蔵の肩越しにそっとコップの中を覗いたかのごとく、電燈の光を遮《さえぎ》って、ありありと影を落しました。こう云うと長い間の事のようですが、前にも云った通りほんの一瞬間で、何とも判然しない物の眼が、直径二寸の黒麦酒の円の中から、ちらりと新蔵の眼を窺ったと思うと、たちまち消え失せてしまったのです。新蔵は飲もうとしたコップを下へ置いて、きょろきょろ前後を見廻しました。が、電燈も依然として明るければ、軒先の釣荵《つりしのぶ》も相不
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