、「どうして?」と、疑わしそうに尋ねました。すると泰さんは面憎いほど落着いた顔をして、「何、訣《わけ》はありゃしない。君が逢えなけりゃ――」と云いかけましたが、急にあたりを見廻しながら、「こうっと、こりゃいざと云う時まで伏せて置こう。どうもさっきからの話じゃ、あの婆め、君のまわりへ厳重に網を張っているらしいから、うっかりした事は云わない方が好さそうだ。実は第一第二の難関も破って破れなくはなさそうに思うんだが。――まあ、まあ、万事僕に任《まか》せて置くさ。それより今夜は麦酒《ビール》でも飲んで、大いに勇気を養って行き給え。」と、しまいにはさも気楽らしい笑に紛《まぎら》してしまうじゃありませんか。新蔵は勿論それを、もどかしくも腹立たしくも思いましたが、さてその麦酒が始まって見ると、やはり泰さんの用心がもっともだったと思うような事が起りました。と云うのは二人の間に浮かない世間話が始まってから、ふと泰さんが気がつくと、燻《いぶ》し鮭《さけ》の小皿と一しょに、新蔵の膳に載って居るコップがもう泡の消えた黒麦酒をなみなみと湛えたまま、口もつけずに置いてあります。そこで泰さんが水の垂れる麦酒罎《ビール
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