がめ》の中から猿が一匹|躍《おど》り出し、怖《こ》わ怖《ご》わ十字架に近づこうとする。それからすぐに又もう一匹。

   26[#「26」は縦中横]

 この洞穴の外部。「さん・せばすちあん」は月の光の中に次第にこちらへ歩いて来る。彼の影は左には勿論《もちろん》、右にももう一つ落ちている。しかもその又右の影は鍔《つば》の広い帽子をかぶり、長いマントルをまとっている。彼はその上半身に殆《ほとん》ど洞穴の外を塞《ふさ》いだ時、ちょっと立ち止まって空を見上げる。

   27[#「27」は縦中横]

 星ばかり点々とかがやいた空。突然大きい分度器が一つ上から大股《おおまた》に下って来る。それは次第に下るのに従い、やはり次第に股を縮め、とうとう両脚を揃《そろ》えたと思うと、徐ろに霞《かす》んで消えてしまう。

   28[#「28」は縦中横]

 広い暗《やみ》の中に懸った幾つかの太陽。それ等の太陽のまわりには地球が又幾つもまわっている。

   29[#「29」は縦中横]

 前の山みち。円光を頂いた「さん・せばすちあん」は二つの影を落したまま、静かに山みちを下って来る。それから樟《くす》の
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