悠々荘
芥川龍之介

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)梢《こずえ》に

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(例)[#地から1字上げ](大正十五年十月二十六日・鵠沼)
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 十月のある午後、僕等三人は話し合いながら、松の中の小みちを歩いていた。小みちにはどこにも人かげはなかった。ただ時々松の梢《こずえ》に鵯《ひよどり》の声のするだけだった。
「ゴオグの死骸を載《の》せた玉突台《たまつきだい》だね、あの上では今でも玉を突いているがね。……」
 西洋から帰って来たSさんはそんなことを話して聞かせたりした。
 そのうちに僕等は薄苔《うすごけ》のついた御影石《みかげいし》の門の前へ通りかかった。石に嵌《は》めこんだ標札《ひょうさつ》には「悠々荘《ゆうゆうそう》」と書いてあった。が、門の奥にある家は、――茅葺《かやぶ》き屋根の西洋館はひっそりと硝子《ガラス》窓を鎖《とざ》していた。僕は日頃《ひごろ》この家に愛着を持たずにはいられなかった。それは一つには家自身のいかにも瀟洒《しょうしゃ》としているためだった。しかしまたそのほかにも荒廃《こうはい》
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