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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)下人《げにん》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)所々|丹塗《にぬり》の剥《は》げた

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「てへん+丑」、第4水準2−12−93]
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 ある日の暮方の事である。一人の下人《げにん》が、羅生門《らしょうもん》の下で雨やみを待っていた。
 広い門の下には、この男のほかに誰もいない。ただ、所々|丹塗《にぬり》の剥《は》げた、大きな円柱《まるばしら》に、蟋蟀《きりぎりす》が一匹とまっている。羅生門が、朱雀大路《すざくおおじ》にある以上は、この男のほかにも、雨やみをする市女笠《いちめがさ》や揉烏帽子《もみえぼし》が、もう二三人はありそうなものである。それが、この男のほかには誰もいない。
 何故かと云うと、この二三年、京都には、地震とか辻風《つじかぜ》とか火事とか饑饉とか云う災《わざわい》がつづいて起った。そこで洛中《らくちゅう》のさびれ方は一通りではない。旧記によると、仏
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