後に僕は夢の中でも歌だの発句だのを作つてゐる。が、名歌や名句は勿論、体を成したものさへ出来たことはない。その癖いつも夢の中では駄作ではないやうに信じてゐる。僕はこれも四五日前に夢の中の野道に佇んでゐた。そこにはいづれも田舎じみた男女が大勢佇んでをり、その中を小さいお神輿《みこし》が一台ワツシヨワツシヨとかつがれて行つた。僕はかう云ふ景色を見ながら、一生懸命に発句を作り、大いに得意になつたりした。しかし後に思ひ出して見ると、それは無残にもこんなものだつた。――「お神輿の渡るを見るや爪立ちて。」



底本:「芥川龍之介全集 第十三巻」岩波書店
   1996(平成8)年11月8日発行
入力:もりみつじゅんじ
校正:林 幸雄
2002年1月26日公開
2004年3月17日修正
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