―貴方の眼は」彼女は此処《ここ》で一寸言ひよどんだ。――「牝牛の眼にそつくりだわ。」
それ以来彼は無関心になつた。(同上)
三 鴉
鴉《からす》は孔雀《くじやく》の羽根を五六本拾ふと、それを黒い羽根の間に※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]《さ》して、得々と森の鳥の前へ現れた。
「どうだ。おれの羽根は立派だらう。」
森の鳥は皆その羽根の美しさに、驚嘆の声を惜まなかつた。さうしてすぐにこの鴉を、森の大統領に選挙した。
が、その祝宴が開かれた時、鴉は白鳥と舞踏する拍子《ひやうし》に折角《せつかく》の羽根を残らず落してしまつた。
森の鳥は即座に騒ぎ立つて、一度にこの詐偽師《さぎし》を突き殺してしまつた。
すると今度はほんたうの孔雀が、悠々と森へ歩いて来た。
「どうだ。おれの羽根は立派《りつぱ》だらう。」
孔雀はまるで扇のやうに、虹色の尾羽根を開いて見せた。
しかし森の鳥は悉《ことごとく》、疑深さうな眼つきを改めなかつた。のみならず一羽の梟《ふくろふ》が、「あいつも詐偽師の仲間だぜ。」と云ふと、一斉《いつせい》にむらむら襲《おそ
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