すばらしい事ではありませんか? そうすれば勿論わたしと一しょに、甚内の罪も亡《ほろ》んでしまう。――甚内は広い日本《にっぽん》国中、どこでも大威張《おおいばり》に歩けるのです。その代り(再び笑う)――その代りわたしは一夜の内に、稀代《きだい》の大賊《たいぞく》になれるのです。呂宋助左衛門《るそんすけざえもん》の手代《てだい》だったのも、備前宰相《びぜんさいしょう》の伽羅《きゃら》を切ったのも、利休居士《りきゅうこじ》の友だちになったのも、沙室屋《しゃむろや》の珊瑚樹《さんごじゅ》を詐《かた》ったのも、伏見の城の金蔵《かねぐら》を破ったのも、八人の参河侍《みかわざむらい》を斬り倒したのも、――ありとあらゆる甚内の名誉は、ことごとくわたしに奪われるのです。(三度《さんど》笑う)云わば甚内を助けると同時に、甚内の名前を殺してしまう、一家の恩を返すと同時に、わたしの恨《うら》みも返してしまう、――このくらい愉快な返報《へんぽう》はありません。わたしがその夜《よ》嬉しさの余り、笑い続けたのも当然です。今でも、――この牢《ろう》の中でも、これが笑わずにいられるでしょうか?
わたしはこの策を思いつ
前へ
次へ
全38ページ中35ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
芥川 竜之介 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング