い哄笑《こうしょう》を感ずるでしょう。「どうだ、弥三郎《やさぶろう》の恩返しは?」――その哄笑はこう云うのです。「お前はもう甚内では無い。阿媽港甚内はこの首なのだ、あの天下に噂の高い、日本《にっぽん》第一の大盗人《おおぬすびと》は!」(笑う)ああ、わたしは愉快です。このくらい愉快に思った事は、一生にただ一度です。が、もし父の弥三右衛門《やそうえもん》に、わたしの曝《さら》し首を見られた時には、――(苦しそうに)勘忍して下さい。お父さん! 吐血の病に罹《かか》ったわたしは、たとい首を打たれずとも、三年とは命は続かないのです。どうか不孝は勘忍して下さい、わたしは極道《ごくどう》に生まれましたが、とにかく一家の恩だけは返す事が出来たのですから、………
[#地から1字上げ](大正十一年三月)
底本:「芥川龍之介全集4」ちくま文庫、筑摩書房
1987(昭和62)年1月27日第1刷発行
1993(平成5)年12月25日第6刷発行
底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房
1971(昭和46)年3月〜1971(昭和46)年11月
入力:j.utiyama
校正:かとうかおり
1998年12月19日公開
2004年3月10日修正
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