べし。しかも文部省はこれを以て未だその破壊慾を満たしたりと做さず、たとひ常談にも何にもせよ、今度の仮名遣改定案を発表したるはかの爆弾事件なるものと軌を一にしたる常談なり。僕は警視庁保安課のかかる常談を取締まるに甚だ寛なるを怪まざる能はず。
僕は勿論山田孝雄氏の驥尾に附する蒼蠅なり。只雑誌「明星」の読者を除ける一天四海の恒河沙人は必しも仮名遣改定案の愚挙たるを知れりと言ふべからず。即ち予言者ヨハネの如く、或は救世軍の太鼓の如く山田氏の公論を広告するに声を大にせる所以なり。然れども野人礼に嫻《なら》はず、妄りに猥雑の言を弄し、上は山田孝雄氏より下は我謹厳なる委員諸公を辱めたるはその罪素より少からず。今ペンを擱かむとするに当り、謹んで海恕を乞ひ奉る。死罪々々。
底本:「芥川龍之介全集 第十二巻」岩波書店
1996(平成8)年10月8日発行
入力:もりみつじゅんじ
校正:松永正敏
2002年5月17日作成
青空文庫作成ファイル:
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