覚えています。私がはじめて芝居を見たのは、団十郎が斎藤内蔵之助《さいとうくらのすけ》をやった時だそうですが、これはよく覚えていません。なんでもこの時は内蔵之助が馬をひいて花道《はなみち》へかかると、桟敷《さじき》の後ろで母におぶさっていた私が、うれしがって、大きな声で「ああうまえん」と言ったそうです。二つか三つくらいの時でしょう。小説らしい小説は、泉鏡花《いずみきょうか》氏の「化銀杏《ばけいちょう》」が始めだったかと思います。もっともその前に「倭文庫《やまとぶんこ》」や「妙々車《みょうみょうぐるま》」のようなものは卒業していました。これはもう高等小学校へはいってからです。



底本:「羅生門・鼻・芋粥」角川文庫、角川書店
   1950(昭和25)年10月20日初版発行
   1985(昭和60)年11月10日改版38版発行
入力:j.utiyama
校正:かとうかおり
1999年1月12日公開
2004年3月7日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたった
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