日この真理を盗用せしむる所以なり。)
 予の梅花を見る毎に、文人趣味を喚び起さるるは既に述べし所の如し。然れども妄に予を以て所謂文人と做すこと勿れ。予を以て詐偽師と做すは可なり。謀殺犯人と做すは可なり。やむを得ずんば大学教授の適任者と做すも忍ばざるにあらず。唯幸ひに予を以て所謂文人と做すこと勿れ。十便十宜帖あるが故に、大雅と蕪村とを並称するは所謂文人の為す所なり。予はたとひ宮せらるると雖も、この種の狂人と伍することを願はず。
 ひとり是のみに止らず、予は文人趣味を軽蔑するものなり。殊に化政度に風行せる文人趣味を軽蔑するものなり。文人趣味は道楽のみ。道楽に終始すと云はば則ち已まん。然れどももし道楽以上の貼札を貼らんとするものあらば、山陽の画を観せしむるに若かず。日本外史は兎も角も一部の歴史小説なり。画に至つては呉か越か、畢につくね芋の山水のみ。更に又竹田の百活矣は如何。これをしも芸術と云ふ可くんば、安来節も芸術たらざらんや。予は勿論彼等の道楽を排斥せんとするものにあらず。予をして当時に生まれしめば、戯れに河童晩帰の図を作り、山紫水明楼上の一粲を博せしやも亦知る可からず。且又彼等も聡明の人
前へ 次へ
全5ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
芥川 竜之介 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング