す人は地蔵にて明過《あけすぐ》し    桃青

釜かぶる人は忍びて別るなり    其角
 槌《つち》を子に抱くまぼろしの君    桃青

 今|其《その》とかげ金色《こんじき》の王       峡水《けふすゐ》
袖に入る※[#「虫+璃のつくり」、第3水準1−91−62]竜《あまりよう》夢《ゆめ》を契《ちぎ》りけむ     桃青
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 是等の作品の或ものは滑稽であるのにも違ひない。が、「痩せたる馬の影」だの「槌を子に抱く」だのの感じは当時の怪談小説よりも寧ろもの凄い位である。芭蕉は蕉風を樹立した後、殆ど鬼趣には縁を断《た》つてしまつた。しかし無常の意を寓した作品はたとひ鬼趣ではないにもせよ、常に云ふ可らざる鬼気を帯びてゐる。
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  骸骨の画に
夕風や盆挑灯《ぼんぢやうちん》も糊ばなれ
  本間|主馬《しゆめ》が宅に、骸骨どもの笛、
  鼓をかまへて能《のう》する所を画きて、
  壁に掛けたり(下略)
稲妻やかほのところが薄《すすき》の穂
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[#地から2字上げ](大正十二年―十三年)



底本:「現代日本文学大系 43 芥川龍之介集」筑摩書房
   1968(昭和43)年8月25日初版第1刷発行
入力:j.utiyama
校正:かとうかおり
1999年1月14日公開
2004年3月16日修正
青空文庫作成ファイル:
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