なことを僕に尋ねたりした。
「Xは女を知っていたかしら?」
「さあ、どうだか……」
 Kは僕を疑うようにじっと僕の顔を眺めていた。
「まあ、それはどうでも好《い》い。……しかしXが死んで見ると、何か君は勝利者らしい心もちも起って来はしないか?」
 僕はちょっと逡巡《しゅんじゅん》した。するとKは打ち切るように彼自身の問に返事をした。
「少くとも僕はそんな気がするね。」
 僕はそれ以来Kに会うことに多少の不安を感ずるようになった。
[#地から1字上げ](大正十五年十一月十三日)



底本:「芥川龍之介全集6」ちくま文庫、筑摩書房
   1987(昭和62)年3月24日第1刷発行
   1993(平成5)年2月25日第6刷発行
底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房
   1971(昭和46)年3月〜1971(昭和46)年11月
入力:j.utiyama
校正:もりみつじゅんじ
1999年3月1日公開
2004年3月10日修正
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