、》に罹《かか》って死んでしまった。)僕等は明るい瑠璃燈《るりとう》の下《した》にウヰスキイ炭酸《たんさん》を前にしたまま、左右のテエブルに群《むらが》った大勢《おおぜい》の男女《なんにょ》を眺めていた。彼等は二三人の支那人《シナじん》を除けば、大抵は亜米利加《アメリカ》人か露西亜《ロシア》人だった。が、その中に青磁色《せいじいろ》のガウンをひっかけた女が一人、誰よりも興奮してしゃべっていた。彼女は体こそ痩《や》せていたものの、誰よりも美しい顔をしていた。僕は彼女の顔を見た時、砧手《きぬたで》のギヤマンを思い出した。実際また彼女は美しいと云っても、どこか病的だったのに違いなかった。
「何《なん》だい、あの女は?」
「あれか? あれは仏蘭西《フランス》の……まあ、女優と云うんだろう。ニニイと云う名で通《とお》っているがね。――それよりもあの爺《じい》さんを見ろよ。」
「あの爺さん」は僕等の隣《となり》に両手に赤葡萄酒《あかぶどうしゅ》の杯《さかずき》を暖め、バンドの調子に合せては絶えず頭を動かしていた。それは満足そのものと云っても、少しも差支《さしつか》えない姿だった。僕は熱帯植物の中か
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