Jしながら、当然僕等の間《あいだ》に起る愛蘭土《アイルランド》の作家たちの話をしていた。しかし僕にのしかかって来る眠気《ねむけ》と闘うのは容易ではなかった。僕は覚束《おぼつか》ない意識の中《うち》にこう云う彼の言葉を聞いたりした。
「I detest Bernard Shaw.」
しかし僕は腰かけたまま、いつかうとうと眠ってしまった。すると、――おのずから目を醒《さ》ました。夜《よ》はまだ明け切らずにいるのであろう。風呂敷《ふろしき》に包んだ電燈は薄暗い光を落している。僕は床《とこ》の上に腹這《はらば》いになり、妙な興奮を鎮《しず》めるために「敷島《しきしま》」に一本火をつけて見た。が、夢の中に眠った僕が現在に目を醒《さ》ましているのはどうも無気味《ぶきみ》でならなかった。
[#地から1字上げ](大正十五年十一月二十九日)
底本:「芥川龍之介全集6」ちくま文庫、筑摩書房
1987(昭和62)年3月24日第1刷発行
1993(平成5)年2月25日第6刷発行
底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房
1971(昭和46)年3月〜1971(昭和46)年1
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