の劇の流行を聞き、丁度南昌に来れる※[#「龍/共」、第3水準1−94−87]芝麓と共に、密《ひそ》かに歌伶《かれい》を其の家に召し、夜半之を演ずるを観《み》る。演じて夫人の跨下を出づるに至るや、両人覚えず大哭《たいこく》して曰、「名節地を掃《はら》ふこと此《ここ》に至る。夫れ復《また》何をか言はん。然れども孺子《じゆし》の為に辱《はづかし》めらるること此に至る。必ず殺して以て忿念《ふんねん》を洩《も》らさん」と。乃《すなは》ち人をして才人巨源を何処《いづこ》かの逆旅《げきりよ》に刺殺せしめたりと言ふ。按《あん》ずるに自殺に怯《けふ》なるものは、他殺にも怯なりと言ふべからず。巨源のこの理を辨《わきま》へず、妄《みだ》りに今人を罵つて畢《つひ》に刀下の怨鬼《えんき》となる。常談も大概《たいがい》にするものなりと知るべし。
[#地から1字上げ](大正十二年)
底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房
1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行
1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行
入力:土屋隆
校正:松永正敏
2007年6月26日作成
青空文庫作成
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