。その名刺には口止め料金のうち半金《はんきん》は自腹を切って置いたから、残金を渡してくれと書いてあるんです。それもこっちで検《しら》べて見れば、その新聞記者に話したのは兄貴の友だち自身なんですからね。勿論半金などを渡したんじゃない。ただ残金をとらせによこしているんです。そのまた新聞記者も新聞記者ですし、……」
「僕もとにかく新聞記者ですよ。耳の痛いことは御免蒙《ごめんこうむ》りますかね。」
僕は僕自身を引き立てるためにも常談《じょうだん》を言わずにはいられなかった。が、従兄の弟は酒気を帯びた目を血走らせたまま、演説でもしているように話しつづけた。それは実際常談さえうっかり言われない権幕《けんまく》に違いなかった。
「おまけに予審判事《よしんはんじ》を怒《おこ》らせるためにわざと判事をつかまえては兄貴を弁護する手合いもあるんですからね。」
「それはあなたからでも話して頂けば、……」
「いや、勿論そう言っているんです。御厚意は重々《じゅうじゅう》感謝しますけれども、判事の感情を害すると、反《かえ》って御厚意に背《そむ》きますからと頭を下げて頼んでいるんです。」
従姉《いとこ》は瓦斯《ガ
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