杜子春
芥川龍之介
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)或《ある》春の日暮です。
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)唐《とう》の都|洛陽《らくよう》
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一
或《ある》春の日暮です。
唐《とう》の都|洛陽《らくよう》の西の門の下に、ぼんやり空を仰いでいる、一人の若者がありました。
若者は名を杜子春といって、元は金持の息子でしたが、今は財産を費《つか》い尽して、その日の暮しにも困る位、憐《あわれ》な身分になっているのです。
何しろその頃洛陽といえば、天下に並ぶもののない、繁昌《はんじょう》を極《きわ》めた都ですから、往来にはまだしっきりなく、人や車が通っていました。門一ぱいに当っている、油のような夕日の光の中に、老人のかぶった紗《しゃ》の帽子や、土耳古《トルコ》の女の金の耳環《みみわ》や、白馬《しろうま》に飾った色糸の手綱《たづな》が、絶えず流れて行く容子《ようす》は、まるで画のような美しさです。
しかし杜子春は相変らず、門の壁に身
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