い》いと思うな」
「何になっても、人間らしい、正直な暮しをするつもりです」
杜子春の声には今までにない晴れ晴れした調子が罩《こも》っていました。
「その言葉を忘れるなよ。ではおれは今日限り、二度とお前には遇《あ》わないから」
鉄冠子はこう言う内に、もう歩き出していましたが、急に又足を止めて、杜子春の方を振り返ると、
「おお、幸《さいわい》、今思い出したが、おれは泰山《たいざん》の南の麓《ふもと》に一軒の家を持っている。その家を畑ごとお前にやるから、早速行って住まうが好い。今頃は丁度家のまわりに、桃の花が一面に咲いているだろう」と、さも愉快そうにつけ加えました。
底本:「蜘蛛の糸・杜子春」新潮文庫、新潮社
1968(昭和43)年11月15日発行
1989(平成元)年5月30日46刷
入力:蒋龍
校正:noriko saito
2005年1月7日作成
2005年11月23日修正
青空文庫作成ファイル:
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