、あらゆる責苦《せめく》に遇《あ》わされたのです。それでも杜子春は我慢強く、じっと歯を食いしばったまま、一言《ひとこと》も口を利きませんでした。
これにはさすがの鬼どもも、呆《あき》れ返ってしまったのでしょう。もう一度|夜《よる》のような空を飛んで、森羅殿の前へ帰って来ると、さっきの通り杜子春を階《きざはし》の下に引き据えながら、御殿の上の閻魔大王に、
「この罪人はどうしても、ものを言う気色《けしき》がございません」と、口を揃《そろ》えて言上《ごんじょう》しました。
閻魔大王は眉をひそめて、暫く思案に暮れていましたが、やがて何か思いついたと見えて、
「この男の父母《ちちはは》は、畜生道《ちくしょうどう》に落ちている筈だから、早速ここへ引き立てて来い」と、一匹の鬼に言いつけました。
鬼は忽ち風に乗って、地獄の空へ舞い上りました。と思うと、又星が流れるように、二匹の獣《けもの》を駆り立てながら、さっと森羅殿の前へ下りて来ました。その獣を見た杜子春は、驚いたの驚かないのではありません。なぜかといえばそれは二匹とも、形は見すぼらしい痩《や》せ馬でしたが、顔は夢にも忘れない、死んだ父母の通
前へ
次へ
全23ページ中18ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
芥川 竜之介 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング