車を造らせるやら、象牙の椅子を誂《あつら》へるやら、その贅沢を一々書いてゐては、いつになつてもこの話がおしまひにならない位です。
するとかういふ噂《うはさ》を聞いて、今までは路で行き合つても、挨拶さへしなかつた友だちなどが、朝夕遊びにやつて来ました。それも一日毎に数が増して、半年ばかり経つ内には、洛陽の都に名を知られた才子や美人が多い中で、杜子春の家へ来ないものは、一人もない位になつてしまつたのです。杜子春はこの御客たちを相手に、毎日酒盛りを開きました。その酒盛りの又盛なことは、中々口には尽されません。極《ごく》かいつまんだだけをお話しても、杜子春が金の杯に西洋から来た葡萄酒を汲んで、天竺《てんぢく》生れの魔法使が刀を呑んで見せる芸に見とれてゐると、そのまはりには二十人の女たちが、十人は翡翠《ひすゐ》の蓮の花を、十人は瑪瑙《めなう》の牡丹の花を、いづれも髪に飾りながら、笛や琴を節面白く奏してゐるといふ景色なのです。
しかしいくら大金持でも、御金には際限がありますから、さすがに贅沢家《ぜいたくや》の杜子春も、一年二年と経つ内には、だんだん貧乏になり出しました。さうすると人間は薄情なも
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