太政大臣《だいじょうだいじん》、女の検非違使《けびいし》、女の閻魔王《えんまおう》、女の三十番神、――そういうものが出来るとすれば、男は少し助かるでしょう。第一に女は男狩りのほかにも、仕栄《しば》えのある仕事が出来ますから。第二に女の世の中は今の男の世の中ほど、女に甘いはずはありませんから。
 小野の小町 あなたはそんなにわたしたちを憎《にく》いと思っているのですか?
 玉造の小町 お憎みなさい。お憎みなさい。思い切ってお憎みなさい。
 使 (憂鬱《ゆううつ》に)ところが憎み切れないのです。もし憎み切れるとすれば、もっと仕合せになっているでしょう。(突然また凱歌《がいか》を挙げるように)しかし今は大丈夫です。あなたがたは昔のあなたがたではない。骨と皮ばかりの女乞食です。あなたがたの爪にはかかりません。
 玉造の小町 ええ、もうどこへでも行ってしまえ!
 小野の小町 まあ、そんなことを云わずに、……これ、この通り拝みますから。
 使 いけません。ではさようなら。(枯芒《かれすすき》の中に消える)
 小野の小町 どうしましょう?
 玉造の小町 どうしましょう?
 二人ともそこへ泣き伏してし
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