、――骨と皮ばかりの女乞食が!
 小野の小町 どうせ骨と皮ばかりの女乞食ですよ。
 玉造の小町 わたしに抱きついたのを忘れたのですか?
 使 まあ、そう腹を立てずに下さい。あんまり変っていたものですから、つい口を辷《すべ》らせたのです。……時にわたしを呼びとめたのは、何か用でもあるのですか?
 小野の小町 ありますとも。ありますとも。どうか黄泉へつれて行って下さい。
 玉造の小町 わたしも一しょにつれて行って下さい。
 使 黄泉へつれて行け? 冗談《じょうだん》を云ってはいけません。またわたしを欺《だま》すのでしょう。
 玉造の小町 あら、欺しなどするものですか!
 小野の小町 ほんとうにどうかつれて行って下さい。
 使 あなたがたを! (首を振りながら)どうもわたしには受け合われません。またひどい目に会うのは嫌《いや》ですから、誰かほかのものにお頼みなさい。
 小野の小町 どうかわたしを憐《あわ》れんで下さい。あなたも情《なさけ》は知っているはずです。
 玉造の小町 そんなことを云わずに、つれて行って下さい。きっとあなたの妻になりますから。
 使 駄目《だめ》です。駄目です。あなたが
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