草《ふかくさ》の少将《しょうしょう》はどうするでしょう? わたしは少将と約束しました。天に在っては比翼《ひよく》の鳥、地に在っては連理《れんり》の枝、――ああ、あの約束を思うだけでも、わたしの胸は張り裂《さ》けるようです。少将はわたしの死んだことを聞けば、きっと歎《なげ》き死《じに》に死んでしまうでしょう。
使 (つまらなそうに)歎き死が出来れば仕合せです。とにかく一度は恋されたのですから、……しかしそんなことはどうでもよろしい。さあ地獄へお伴《とも》しましょう。
小町 いけません。いけません。あなたはまだ知らないのですか? わたしはただの体ではありません。もう少将の胤《たね》を宿しているのです。わたしが今死ぬとすれば、子供も、――可愛いわたしの子供も一しょに死ななければなりません。(泣きながら)あなたはそれでも好《よ》いと云うのですか? 闇《やみ》から闇へ子供をやっても、かまわないと云うのですか?
使 (ひるみながら)それはお子さんにはお気の毒です。しかし閻魔王《えんまおう》の命令ですから、どうか一しょに来て下さい。何、地獄も考えるほど、悪いところではありません。昔から名高い美
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