歡喜でございませう。が、その中でたつた一人、[#「たつた一人、」は底本では「たつた、」]御縁の上の大殿樣だけは、まるで別人かと思はれる程、御顏の色も青ざめて、口元に泡を御ためになりながら、紫の指貫《さしぬき》の膝を兩手にしつかり御つかみになつて、丁度喉の渇いた獸のやうに喘ぎつゞけていらつしやいました。……

       二十

 その夜雪解の御所で、大殿樣が車を御燒きになつた事は、誰の口からともなく世上へ洩れましたが、それに就いては隨分いろ/\な批判を致すものも居つたやうでございます。先第一に何故《なぜ》大殿樣が良秀の娘を御燒き殺しなすつたか、――これは、かなはぬ戀の恨みからなすつたのだと云ふ噂が、一番多うございました。が、大殿樣の思召しは、全く車を燒き人を殺して[#「殺して」は底本では「「殺しで」]までも、屏風の畫を描かうとする繪師根性の曲《よこしま》なのを懲らす御心算《おつもり》だつたのに相違ございません。現に私は、大殿樣が御口づからさう仰有るのを伺つた事さへございます。
 それからあの良秀が、目前で娘を燒き殺されながら、それでも屏風の畫を描きたいと云ふその木石のやうな心もちが、
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