人の呵責に苦しむ樣も知らぬと申されませぬ。又獄卒は――」と云つて、良秀は氣味の惡い苦笑を洩しながら、「又獄卒は、夢現《ゆめうつゝ》に何度となく、私の眼に映りました。或は牛頭《ごづ》、或は馬頭《めづ》、或は三面六臂の鬼の形が、音のせぬ手を拍き、聲の出ぬ口を開いて、私を虐みに參りますのは、殆ど毎日毎夜のことと申してもよろしうございませう。――私の描かうとして[#「描かうとして」は底本では「描かうして」]描けぬのは、そのやうなものではございませぬ。」
それには大殿樣も、流石に御驚きになつたでございませう。暫くは唯|苛立《いらだ》たしさうに、良秀の顏を睨めて御出になりましたが、やがて眉を險しく御動かしになりながら、
「では何が描《か》けぬと申すのぢや。」と打捨るやうに仰有いました。
十五
「私は屏風の唯中に、檳榔毛《びらうげ》の車が一輛空から落ちて來る所を描かうと思つて居りまする。」良秀はかう云つて、始めて鋭く大殿樣の御顏を眺めました。あの男は畫の事を云ふと、氣違ひ同樣になるとは聞いて居りましたが、その時の眼のくばりには確にさやうな恐ろしさがあつたやうでございます。
「その
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