しい事を並べてるぢやあないか。いくら、あれは君の事を書いたのではないと云つても、承知しない。始めから、僕の手から出た材料ではないと云つてしまへば、よかつたのだが、それをしなかつたのが、こつちの落度さ。が、僕がKの話をした小説家と云ふのは、気の小さい、大学を出たての男で、K君の名誉に関《かかは》る事だから位、おどかして置けば、決して、モデルが誰だなぞと云ふ事を、吹聴《ふいちやう》する男ぢやあない。そこで、怪《あや》しいと思つたから、Kに、何故《なぜ》君がモデルだと云ふ事がわかつたと、追窮したら、驚いたね、実際Kの奴が、かくれて芸者遊びをしてゐたのだ。それも、箒《はうき》なのだらうぢやあないか。仕方がないから、僕は、表面上、Kの私行を発《あば》いたと云ふ罪を甘受《かんじゆ》して、Kに謝罪したがね。まるで、寃罪《えんざい》に伏した事になるのだから、僕もいい迷惑さ。しかし、それ以来、僕の提供する材料が、嘘ではないと云ふ事が、僕の友だちの小説家仲間に、確証されたからね。満更《まんざら》、莫迦《ばか》を見たわけでもないと云ふものさ。
だが、たまには、面白《おもしろ》い事もあるよ。僕は、いつかMが
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