それじゃ砂金になっても、つまらないような気がしますが。」
「勿論つまらないものなのですよ。それ以上に考えるのは、考える方が間違っているのです。」
思兼尊はこう云うと、実際つまらなそうな顔をしながら、どこかで摘んで来たらしい蕗《ふき》の薹《とう》の※[#「均のつくり」、第3水準1−14−75]《におい》を嗅《か》ぎ始めた。
十二
素戔嗚《すさのお》はしばらく黙っていた。するとまた思兼尊《おもいかねのみこと》が彼の非凡な腕力へ途切《とぎ》れた話頭を持って行った。
「いつぞや力競《ちからくら》べがあった時、あなたと岩を擡《もた》げ合って、死んだ男がいたじゃありませんか。」
「気の毒な事をしたものです。」
素戔嗚は何となく、非難でもされたような心もちになって、思わず眼を薄日《うすび》がさした古沼《ふるぬま》の上へ漂《ただよ》わせた。古沼の水は底深そうに、まわりに芽《め》ぐんだ春の木々をひっそりと仄《ほの》明るく映していた。しかし思兼尊は無頓着に、時々蕗の薹へ鼻をやって、
「気の毒ですが、莫迦《ばか》げていますよ。第一|私《わたし》に云わせると、競争する事がすでによろし
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