て今まで立っていたこちらの汀を振返っては声々に笑ったり話したりしていた。
 容貌の醜い若者はこの新しい遊戯を見ると、すぐに弓矢を砂の上に捨てて、身軽く河の流れを躍り越えた。そこは彼等が飛んだ中でも、最も幅の広い所であった。けれどもほかの若者たちはさらに彼には頓着しなかった。彼等には彼の後で飛んだ――彼よりも幅の狭い所を彼よりも楽に飛び越えた、背《せい》の高い美貌《びぼう》の若者の方が、遥《はるか》に人気があるらしかった。その若者は彼と同じ市松の倭衣《しずり》を着ていたが、頸《くび》に懸けた勾玉《まがたま》や腕に嵌《は》めた釧《くしろ》などは、誰よりも精巧な物であった。彼は腕を組んだまま、ちょいと羨しそうな眼を挙げて、その若者を眺めたが、やがて彼等の群を離れて、たった一人|陽炎《かげろう》の中を河下《かわしも》の方へ歩き出した。

        二

 河下の方へ歩き出した彼は、やがて誰一人飛んだ事のない、三丈ほども幅のある流れの汀《なぎさ》へ足を止めた。そこは一旦|湍《たぎ》った水が今までの勢いを失いながら、両岸の石と砂との間に青々と澱《よど》んでいる所であった。彼はしばらくその水面
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