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或年の春《はる》、僕《ぼく》は原稿の出来ぬことに少《すくな》からず屈託《くったく》していた。滝田[#「滝田」に丸傍点]君《くん》はその時|僕《ぼく》のために谷崎潤一郎[#「谷崎潤一郎」に丸傍点]君《くん》の原稿を示《しめ》し、(それは実際《じっさい》苦心《くしん》の痕の歴々《れきれき》と見える原稿だった。)大いに僕《ぼく》を激励《げきれい》した。僕《ぼく》はこのために勇気《ゆうき》を得《え》てどうにかこうにか書き上げる事が出来た。
僕《ぼく》の方からはあまり滝田[#「滝田」に丸傍点]君《くん》を尋《たず》ねていない。いつも年末《ねんまつ》に催《もよお》されるという滝田[#「滝田」に丸傍点]君《くん》の招宴《しょうえん》にも一|度《ど》席末《せきまつ》に列《れっ》しただけである。それは確《たしか》震災《しんさい》の前年、――大正十一年の年末《ねんまつ》だったであろう。僕《ぼく》はその夜《よ》田山花袋[#「田山花袋」に丸傍点]、高島米峰[#「高島米峰」に丸傍点]、大町桂月[#「大町桂月」に丸傍点]の諸氏《しょし》に初《はじ》めてお目にかかることが出来た。
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僕
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