ーらくクリストの彼等の一人でなかつたことを悲しんだであらう。ゲエテをベエトホオヴエンの罵《ののし》つたのは正にゲエテ自身の中にゐるサドカイの徒やパリサイの徒を罵つたのだつた。

     17[#「17」は縦中横] カヤパ

 祭司の長《をさ》だつたカヤパにも後代の憎しみは集つてゐる。彼はクリストを憎んでゐたであらう。が、必しもこの憎しみは彼一人にあつた訣《わけ》ではない。唯彼を推し立てることのクリストを憎み或は妬《ねた》んだ大勢の人々に便利だつたからである。カヤパはきららに袍《ほう》を着下《きくだ》し、冷かにクリストを眺めてゐたであらう。現世はそこにピラトと共に意気地のない聖霊の子供を嘲《あざけ》つてゐる。燃えさかる松明《たいまつ》の光りの中に。……

     18[#「18」は縦中横] 二人の盗人たち

 クリストの死の不評判だつたことは彼の十字架にかかる時にも盗人たちと一しよだつたのに明らかである。盗人たちの一人はクリストを罵ることを憚《はばか》らなかつた。彼の言葉は彼自身の中にやはり人生の為に打ち倒されたクリストを見出したことを示してゐる。しかしもう一人の盗人は彼よりも更に妄
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