が起るのを感じた。そうしてその光の中に、大勢《おおぜい》の男女の歓喜する声が、澎湃《ほうはい》と天に昇《のぼ》るのを聞いた。
「大日※[#「靈」の「巫」に代えて「女」、第3水準1−47−53]貴《おおひるめむち》! 大日※[#「靈」の「巫」に代えて「女」、第3水準1−47−53]貴! 大日※[#「靈」の「巫」に代えて「女」、第3水準1−47−53]貴!」
「新しい神なぞはおりません。新しい神なぞはおりません。」
「あなたに逆《さから》うものは亡びます。」
「御覧なさい。闇が消え失せるのを。」
「見渡す限り、あなたの山、あなたの森、あなたの川、あなたの町、あなたの海です。」
「新しい神なぞはおりません。誰も皆あなたの召使です。」
「大日※[#「靈」の「巫」に代えて「女」、第3水準1−47−53]貴! 大日※[#「靈」の「巫」に代えて「女」、第3水準1−47−53]貴! 大日※[#「靈」の「巫」に代えて「女」、第3水準1−47−53]貴!」
そう云う声の湧き上る中に、冷汗になったオルガンティノは、何か苦しそうに叫んだきりとうとうそこへ倒れてしまった。………
その夜《よ》も三更《さんこう》に近づいた頃、オルガンティノは失心の底から、やっと意識を恢復した。彼の耳には神々の声が、未だに鳴り響いているようだった。が、あたりを見廻すと、人音《ひとおと》も聞えない内陣《ないじん》には、円天井《まるてんじょう》のランプの光が、さっきの通り朦朧《もうろう》と壁画《へきが》を照らしているばかりだった。オルガンティノは呻《うめ》き呻き、そろそろ祭壇の後《うしろ》を離れた。あの幻にどんな意味があるか、それは彼にはのみこめなかった。しかしあの幻を見せたものが、泥烏須《デウス》でない事だけは確かだった。
「この国の霊と戦うのは、……」
オルガンティノは歩きながら、思わずそっと独り語《ごと》を洩らした。
「この国の霊と戦うのは、思ったよりもっと困難らしい。勝つか、それともまた負けるか、――」
するとその時彼の耳に、こう云う囁《ささや》きを送るものがあった。
「負けですよ!」
オルガンティノは気味悪そうに、声のした方を透《す》かして見た。が、そこには不相変《あいかわらず》、仄暗《ほのぐら》い薔薇や金雀花《えにしだ》のほかに、人影らしいものも見えなかった。
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