新緑の庭
芥川龍之介
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)尤《もつと》も
|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)霧島|躑躅《つつじ》
−−
桜 さつぱりした雨上りです。尤《もつと》も花の萼《がく》は赤いなりについてゐますが。
椎 わたしもそろそろ芽をほごしませう。このちよいと鼠がかつた芽をね。
竹 わたしは未だに黄疸《わうだん》ですよ。…………
芭蕉 おつと、この緑のランプの火屋《ほや》を風に吹き折られる所だつた。
梅 何だか寒気がすると思つたら、もう毛虫がたかつてゐるんだよ。
八つ手 痒《かゆ》いなあ、この茶色の産毛《うぶげ》のあるうちは。
百日紅《さるすべり》 何、まだ早うござんさあね。わたしなどは御覧の通り枯枝ばかりさ。
霧島|躑躅《つつじ》 常――常談云つちやいけない。わたしなどはあんまり忙しいもんだから、今年だけはつい何時にもない薄紫に咲いてしまつた。
覇王樹《サボテン》 どうでも勝手にするが好いや。おれの知つたことぢやなし。
石榴《ざくろ》 ちよいと枝一面に蚤のたかつたやうでせう。
次へ
全2ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
芥川 竜之介 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング