後《のち》、そこに開き始める菊の花が一輪。菊の花は石燈籠の笠よりも大きい。

          76[#「76」は縦中横]

 前の石燈籠の下部。少年は前と変りはない。そこへ帽を目深《まぶか》にかぶった巡査《じゅんさ》が一人歩みより、少年の肩へ手をかける。少年は驚いて立ち上り、何か巡査と話をする。それから巡査に手を引かれたまま、静かに向うへ歩いて行《ゆ》く。

          77[#「77」は縦中横]

 前の石燈籠の下部の後ろ。今度はもう誰もいない。

          78[#「78」は縦中横]

 前の仁王門《におうもん》の大提灯《おおじょうちん》。大提灯は次第に上へあがり、前のように仲店《なかみせ》を見渡すようになる。ただし大提灯の下部だけは消え失《う》せない。
[#地から1字上げ](昭和二年三月十四日)



底本:「芥川龍之介全集6」ちくま文庫、筑摩書房
   1987(昭和62)年3月24日第1刷発行
   1993(平成5)年2月25日第6刷発行
底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房
   1971(昭和46)年3月〜1971(昭和46)年11月
入力:j.utiyama
校正:かとうかおり
1998年4月20日公開
2004年3月7日修正
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