何本かのかもじ[#「かもじ」に傍点]に変ってしまう。かもじ[#「かもじ」に傍点]の中に下った札《ふだ》が一枚。札には今度は「入れ毛」と書いてある。
57[#「57」は縦中横]
セセッション風に出来上った病院。少年はこちらから歩み寄り、石の階段を登って行《ゆ》く、しかし戸の中へはいったと思うと、すぐにまた階段を下《くだ》って来る。少年の左へ行った後《のち》、病院は静かにこちらへ近づき、とうとう玄関だけになってしまう。その硝子戸《ガラスど》を押しあけて外へ出て来る看護婦《かんごふ》が一人。看護婦は玄関に佇《たたず》んだまま、何か遠いものを眺めている。
58[#「58」は縦中横]
膝の上に組んだ看護婦の両手。前になった左の手には婚約の指環が一つはまっている。が、指環はおのずから急に下へ落ちてしまう。
59[#「59」は縦中横]
わずかに空を残したコンクリイトの塀。これもおのずから透明《とうめい》になり、鉄格子《てつごうし》の中に群《むらが》った何匹かの猿を現して見せる。それからまた塀全体は操《あやつ》り人形《にん
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