別《むふんべつ》に的《まと》を狙《ねら》う。射撃屋の店には誰もいない。少年の姿は膝の上まで。

          25[#「25」は縦中横]

 西洋人の女の人形。人形は静かに扇をひろげ、すっかり顔を隠してしまう。それからこの人形に中《あた》るコルクの弾丸《たま》。人形は勿論|仰向《あおむ》けに倒れる。人形の後ろにも暗のあるばかり。

          26[#「26」は縦中横]

 前の射撃屋の店。少年はまた空気銃をとり上げ、今度は熱心に的《まと》を狙う。三発、四発、五発、――しかし的は一つも落ちない。少年は渋《し》ぶ渋《し》ぶ銀貨を出し、店の外へ行ってしまう。

          27[#「27」は縦中横]

 始めはただ薄暗い中に四角いものの見えるばかり。その中にこの四角いものは突然電燈をともしたと見え、横にこう云う字を浮かび上《あが》らせる。――上に「公園|六区《ろっく》」下に「夜警詰所《やけいつめしょ》」。上のは黒い中に白、下のは黒い中に赤である。

          28[#「28」は縦中横]

 劇場の裏の上部。火のともった窓が一つ見える。まっ直《すぐ》に雨樋《あまどい》をおろした壁にはいろいろのポスタアの剥《は》がれた痕《あと》。

          29[#「29」は縦中横]

 この劇場の裏の下部《かぶ》。少年はそこに佇《たたず》んだまま、しばらくはどちらへも行《ゆ》こうとしない。それから高い窓を見上げる。が、窓には誰も見えない。ただ逞《たくま》しいブルテリアが一匹、少年の足もとを通って行く。少年の匂《におい》を嗅《か》いで見ながら。

          30[#「30」は縦中横]

 同じ劇場の裏の上部。火のともった窓には踊り子が一人現れ、冷淡に目の下の往来を眺める。この姿は勿論《もちろん》逆光線のために顔などははっきりとわからない。が、いつか少年に似た、可憐《かれん》な顔を現してしまう。踊り子は静かに窓をあけ、小さい花束《はなたば》を下に投げる。

          31[#「31」は縦中横]

 往来に立った少年の足もと。小さい花束が一つ落ちて来る。少年の手はこれを拾う。花束は往来を離れるが早いか、いつか茨《いばら》の束に変っている。

          32[#「32」は縦中横]

 黒い一枚の掲示板《けいじばん》。掲示板
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